大手には旬がある/正金醤油(香川県小豆島)

正金醤油

「大手の醤油メーカーさんがつくる醤油には旬がある」と正金醤油の藤井さんは言います。

一般的には、逆の印象を抱く方のほうが多いかもしれません。大量生産ができる大手メーカーよりも、小規模で昔ながらの製法の蔵元にこそ旬がありそうな気もします。

藤井さんはとても謙虚なつくり手さん。大手の悪口を言わないばかりか、大手の研究開発技術や管理の仕方をすごいと認めています。

そして、話を伺っているとこの「旬」の捉え方に、なるほどと感じてしまうのです。



大手メーカーは一年を通して醤油をつくることができます。仕込みの条件や発酵の管理など研究に裏付けされた理論があるからです。醤油をつくる微生物が最も活動しやすい環境を整えることも可能。

短期間で大量生産、しかも同一品質を実現できるということは、醤油が一番おいしくなったちょうどのタイミングで一気に搾ることができるわけです。

逆に、小規模の醤油蔵の場合、寒い時期に仕込みをして約一年の熟成期間を経て圧搾をスタートさせますが、一度に全量を搾るわけではありません。年間を通して搾っていくので、一年熟成のものもあれば一年半熟成のものもあります。

醤油にとって一番おいしいタイミングを「旬」と捉えれば、その少し前の「走り」のものもあれば、旬を少しこした「名残」のものもあるというわけです。



旬の素材を食すときも同じはずです。一番の食べごろが「旬」であれば、出始めのものは「走り」で、旬が過ぎてそろそろお終いという「名残」があって、微妙に味わいも異なるはず。

これを醤油に置き換えると、大手メーカーは出荷のタイミングにすべてを「旬」で揃えることができるけど、小規模メーカーの場合は「走り」も「旬」も「名残」もあるというわけです。

悪くいえば味のぶれ。でも、この点が魅力だとも感じています。

混ぜるより時間がかかるよね/正金醤油(香川県小豆島)

正金醤油

先日、小豆島の正金醤油さんに伺ってきました。いつのように藤井さんに出迎えていただいたのですが、この藤井さんは私の知る限り一番謙虚なつくり手かもしれません。国産原料で木桶仕込み。蔵の中もとにかく手入れが行き届いていて、細かいところまで管理されています。

蔵に入った時の床を見れば一目瞭然で、木目がしっかりと確認ができるほどに磨き上げられています。

これって、簡単じゃないんです。今の時期は醤油の諸味がぷくぷく発酵をしていて、攪拌といってかき混ぜる作業も行われます。その時の飛び跳ねがどうしても床についてしまうのですが、それを拭き取る程度ではこの状態にはならないはずです。拭き取って、さらに磨き上げるくらいに丁寧に拭いているはずなのです。

正金醤油

「きれいにしようと思うと、混ぜるより時間がかかるよね」と藤井さんはいいます。攪拌にかける時間より、掃除にかける時間の方が長くというわけですが、そのおかげで蔵の中にはイヤな臭いがなくて、心地よい醤油の香りが広がっています。「諸味を混ぜている時に、香りがよい方が気持ちいいでしょ?!」と、自分のためにしているかのようなものの言い方も、藤井さんらしいなって感じてしまうのです。

中村醸造元(青森県南津軽郡)

中村醸造元

スーパーの調味料売場に行くと、その地域ならではの醤油が並んでいることがあります。青森県の場合は昆布醤油。地元や県外の大手メーカーの昆布醤油も並び、ひとつのコーナーができているほどでした。

神田川俊郎さんの顔写真がパッケージになっている昆布醤油をご存知の方も多いかもしれません。このインパクトのある「元祖昆布しょうゆ」を手掛ける中村醸造元に訪問させていただきました。

中村醸造元

兼平さんは元日本酒の杜氏さん(右)。

日本酒と醤油は似ているようでやっぱり違うそうです。「日本酒の時は何か変化があったときにすぐに判断をしないといけないけど、醤油はじっくりと考えて対応できるよね」と、その語り口調が、いかにも現場一筋って感じの回答でした。

大豆を水に浸す時間も季節ごとに決められていて、誰もが同じ作業をできるように表にまとめられていました。そして、何より印象的だったのは「洗浄に始まり洗浄に終わる」という一言。醤油や諸味を輸送するホースもしっかりと手順を決めて洗浄しているそうですが、「酒造りでは当たり前のことでしたから、そのままをやっているんですよ」と。

中村醸造元

「色がうすくて、醤油っぽくないものを目指している」というのも、昆布醤油にしたときに昆布と醤油の相性を最適にするための逆算のように聞こえますし、そうかといって、加工技術に頼り切っているようなスタンスもなくて、醤油に使う大豆と小麦もすべて青森県産だそうです。

地元を含めて多くの方に応援されているんだろうなって、そう感じさせてくれる蔵元さんでした。

新潟県産醤油復活プロジェクト

新潟県産醤油復活プロジェクト

テレビの取材で新潟県醤油協業組合さんに伺ってきました。過去に一度訪問させていただいたことがあるのですが、円盤製麹室の中がとにかく綺麗で、「先輩の時代からずっと言われて続けているんです」と、特別なことではない雰囲気。今回も夕方になると現場のあちこちで掃除をされていました。しゃがみこんで床をゴシゴシしている光景も、日常なんでしょうね。

組合の工場はその名の通り、組合に加入している醤油メーカーの醤油生産を共同で行っています。日本の各地に存在しているのですが、自社商品をつくっていることは少ないので、存在を知っている方は少ないかもしれません。でも、新潟ではこんな取り組みをしているそうです。

新潟県産醤油復活プロジェクト
http://www.syoyu-fukkoku-pj.jp/

新潟県産の大豆と、新潟県産の小麦。それを天然醸造で醤油にして調整せずに瓶詰めするという、新潟県の原料と気候でつくる醤油づくり。その一部は地元の方を巻き込んで、仕込みの作業を一緒に行い小さな木桶に分けられていました。これはさらに特別な醤油として、自分たちが仕込んだ醤油を自分で食せるってわけです。

「元々は社内を意識した取り組みだったんです」と話してくれたのは常務理事の佐田さん。「スタッフが小麦がつくられている現場を知らなかったんです。だって、電話すれば原料としての小麦がどかんと届きますから。でも、地元で原材料が作られていれば、こんな環境で育っているんだって感じることもできるし、お客さんがきたらちょっと見に行きましょうってこともできる。最初はそんなところだったんですよ」。

どんどん新しい取り組みに挑戦して、若いスタッフに役割を任せていく。佐田さんのような方がいると、このような取り組みが加速していくんだなって感じました。ぜひ、サイトを見てみてください!

新潟県産醤油復活プロジェクト
http://www.syoyu-fukkoku-pj.jp/

加藤味噌醤油醸造元(青森県弘前市)

加藤味噌醤油醸造元

ミツル醤油の城さんとの東北訪問。青森県弘前市の加藤味噌醤油醸造元さんにやってきました。加藤諭絵さんと城さんが大学時代に同じ研究室、ご結婚されてご主人の裕人さんは群馬県から青森県に移り住んだそうです。

立派な看板が掲げられている店舗。中は住居も兼ねていて、その奥に蔵が続くのですが、まぁ、とにかく立派です。「修繕が大変なんです・・・」と言われますが、増築を繰り返したような形跡もそれだけ歴史を刻んでいる証拠なのだと思います。

加藤味噌醤油醸造元

この時は5月の半ばだったのですが、青森はやはり涼しい。城さんのいる九州では諸味が発酵しているそうですが、ここではそんな気配は一切ありません。これから暖かくなってくると発酵も始まってくるはずですが、分かりやすい形で地域差があることを実感します。

加藤味噌醤油醸造元

室全体が分厚い壁で覆われていて、内側は木の板が貼られています。特徴的なのは木目がしっかりと確認できるくらいに綺麗なこと。日本酒の麹室と思ってしまう程でした。醤油の場合は黒くなっている場合がほとんど。特に壁の板がこの状態というのが、「どうしてだろう?」と城さんも呟いていました。麹づくりの時はもっと寒いので、外部の空気を入れることで室の内部が結露しにくいとか、なにかしらの理由がありそうです。

加藤味噌醤油醸造元

そして、倉庫の中で目にしたのは山のように積まれている麹蓋。「使わなくなったという方からいただいてきたんです」と裕人さん。1回の仕込みに400枚。時間差で2回分の麹蓋が室の中に入るので、その倍の800枚が稼働するそうです。諭絵さんのお父様がずっと守ってこられた製法なのですが、麹蓋による製麹は全国的にみてもかなり珍しいものです。

加藤味噌醤油醸造元

このように伝統が根付いてる環境。若夫婦が戻ってくると、何かしらの変化が生まれるものですが、これからどんな方向に進んでいくのか?また数年後に伺いたいと、そう感じさせてくれる蔵元でした。

加藤味噌醤油醸造元

加藤味噌醤油醸造元
https://www.tsugaru-yamatou.com/